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◆不定期日記ログ◆

LOG 2021-06

■2021-06-06
THE GHOST MAP
 スティーヴン・ジョンソンの『感染地図 歴史を変えた未知の病原体』を読んだ。
 コロナでなくコレラの話です。2006年発行。


 舞台は1854年のロンドン(ジョナサン・ジョースターが生まれる10年ほど前)。日本史で言うとペリーが来た頃。
 当時のロンドンは200万人の人口をかかえる世界最大級の過密都市で、めちゃくちゃ人糞の山とかがあった。下水も漏れまくり詰まりまくり。ディオが「衛生観念もない虫けら同然のたかがじじいの浮浪者」とか言ってたが、そもそも公衆衛生という概念が生まれてない。そういう中でコレラが大流行する。詳しくはWikipediaにも項目がある。

 コレラは主に患者の吐瀉物や排泄物が口内に入ることで感染するが、当時コレラは汚れた空気(瘴気ミアズマ)がもたらすものだと信じられていた。お排泄物が街中に溢れていればそりゃもう臭く、これだけダーティな空気を吸ってれば病気にもなるわと誰も疑っていなかった。町医者のジョン・スノウを除いては。
 ジョン・スノウはタフな男だったので、同じ悪臭の中で暮らしていながら感染していない者、逆に比較的清潔な場所にいながら感染して死んだ者がいることに疑問を感じ、現地で調査をし続けた。そして町の教会のヘンリー・ホワイトヘッド副牧師と共にフィールドワークを重ね、清涼に見えた井戸水がこの災厄を引き起こしたことを突き止めた。
 統計と医学で衛生の必要を説いた偉人といえばナイチンゲールを思い出すが、同時期に同じく統計で戦った医者がいたことは初めて知った。それはそれとして「ジョン・スノウ」でググると『ゲーム・オブ・スローンズ』のイケメンばかりが出てくるので顔が良いッ!ってなってしまう。


 本書ではその感染経路を、いかにして「瘴気説」を信じる行政や民衆に提示していくかというパートにかなりページを割いている。
 ヒトは危険な細菌を目で見ることはできないが、その細菌が醸し出す悪臭を嗅覚で感じ取り本能的に避けてきた。だが臭いそのものは細菌ではない。たとえ悪臭のそばで暮らしていても、細菌が体に入らなければ発症しない……それは理屈で分かっていても本能が理解してくれない。
 ジョン・スノウは地図上に井戸の利用者の範囲と死亡者数をプロットし、マクロとミクロの両面から証拠を揃えていった。そして行政を説得し、井戸を封鎖してさらなる拡大を防いだ。現代の我々からすればオーバーキルめいた科学的根拠の物量でありぐうの音も出ない。それでも瘴気説が払拭されたのはジョン・スノウが死んだ後であった。


 コロナ禍にいる我々にとって、教訓にすべきことがいろいろある。
 コレラ禍の人々は「コレラは空気感染しない、患者の排泄物の菌が混じった水を飲むと感染する」って言われて「は? つまり俺たちはうんこを飲んでるってことか?」ってキレたと思う。実際は地面に穴を掘って汚物を溜めてたとこから土壌に菌が染み出して井戸水に接触したわけだが、まあつまり患者のうんこが微粒子レベルで存在することには違いない。
 コロナ禍にある我々は「井戸の近くにうんこ溜めてたとか信じられん、衛生観念のかけらもねえな」と理解はできるが、「コロナはいわゆる空気感染でなく飛沫で感染する」って言われて「エッ……つまり対面で会話したらもうお互いの唾液を交換している……ってコト!?」となってしまう。
 遠い未来、ゴリラ禍にある未来人たちは「現実世界でマスクなしで対面会話してたとか信じられん、それもうキスじゃん」って思ってるかもしれない。それもうキスじゃん……


 また、ヴィクトリア期は医学が未成熟だったのに比べて、情報は大きく進化していた。新聞とかだ。それゆえ「コレラの治療法」と称してヒマシ油を飲んだり(下痢が悪化してしぬ)、ブランデーを飲んだり(脱水が加速してしぬ)、瀉血したり(水分がなくなってしぬ)といった方法が広告欄を埋め尽くし、本当に有効な治療法にたどり着いた医者の意見は埋もれてしまった。
 現在の医療は大きく進歩したが、情報はそれよりはるかに速い速度で進化した。SNS上に溢れるデマの中から信頼に足る情報を得ることは年々難しくなっている。結局人は自分が信じたいものを信じるので、メディアをリテラシーすることはとても大変なのだ。コロナ禍にいる我々がコレラ禍にいた人々から学べることは多い。
 
■2021-06-22
そうだ、資格を取ろう
 業務上の秘密に抵触する可能性があるのでぼかしておくが、まれに発生するあるタイプの仕事に対して有効であるということで、資格試験というやつに挑むことになった。


 突然だがファミコン版ファイナルファンタジー3のあかまどうしの話をしたい。
 赤魔道士という職業は、剣も持ててレベル3までの白魔法・黒魔法を使える万能戦士で、最序盤では無類の便利さを誇る。しかし浮遊大陸から旅立つころにはそれぞれのスペシャリストに押され、とっととほかの職に転じて二度と顧みられることはない。

 小学生だった俺はこの事例から「器用貧乏」という言葉を理解した。しかし今ならそれが浅はかだったとわかる。確かに赤魔道士は光の戦士としては半端だが、実際に光の戦士として戦うのは世界でたったの4人であり、その外には無数の一般人の暮らしがあるのだ。

 あの世界の赤魔道士というのは、魔法の研究職である黒魔道士と、治癒・浄化の実務を行う白魔道士という2つの集団をコーディネートする職業なのではないだろうか。
 大きな国家がこの2つの集団を大規模に運用するようなプロジェクトが立ち上がったとき、企画・折衝・提案を行うために、両方の魔道士のことをよく知る職業が必要になったのではないか。
 そして、そういう職業は我々の世界にも多々あるのではないだろうか。レベル8の技能を使いこなすスペシャリストになれずとも、レベル3までの複数の技能を同時に活用できればそれはオンリーワンの技能となり得るのである。


 今回俺が受験した資格試験はまさにそういう類いのもので、レベル3までの白魔法と黒魔法が両方要求される。白魔法は業務で、黒魔法は趣味である程度カバーできていたので挑戦することになった。
 とはいえ、業務上ケアルの原理は知っていても唱えたことはないし、ブライナとか存在すら知らなかった魔法も多々ある。
 同様に、趣味で黒魔法を唱えまくっているとはいえ、どういう原理でサンダーが実装されているのかとかは全く知らなかったので、だいぶ勉強をすることになった。

 いま「勉強をすることになった」と言ったがまったくこれも難儀した。社会人になってからというもの勉強というものを怠っていたと言わざるを得ない。強いて勉めると書いて勉強……何か物悲しいわね……。
 マイナーな資格のため、講座や参考書などというものはなく、過去問をひたすら掘るしか方法がない。目についた専門用語を片っ端から調べてノートにまとめつつ、「自力で新しい分野の勉強をする方法」を身につけさせるのが高等教育の力なのだなと実感するなどした。


 決して合格率の高くない試験なので、果たして俺の実力が合格点に達したかはわからない。だがやれるだけのことはやった。検定結果が送られてきてもここでは触れないので、あとはそうっとしておいて欲しい。
 
■2021-06-28
20周年
 サイト開設20周年だー!
 ……2週間前にな!!

 なんと20周年という盛大に祝うべき区切りを完全に忘れてしまっていた。仕方ないだろ資格試験の勉強してたんだから。慣れないことしてたもんでここで何かしようって発想がなかったんだよ。

 とはいえ今月中に何か書いておかないと、来年うっかりこのことを忘れて20周年を祝ってしまいそうな気がする。書いておかないと忘れてしまうのだ。
 「書いておかないと忘れる」……これは試験勉強を久しぶりにやって痛感したことで、やはり画面上の情報を見て回るだけでは記憶はすぐに揮発してしまう。勉強をするなら何かしらの形で自らアウトプットをしておかないといけない。
 なのでこういうアウトプットの場を持っておくことはとても大事なことで、だから俺はほぼ自分のための記録を20年も続けているのだ。

 「書かなければ覚えない」という話をしたばかりの今のうちに告白しておくと、俺は自分の現在の年齢をこのサイトを使って調べたことが一度や二度ではない。書いても忘れる。みんなweb上に外部記憶装置を持つべきだと思う。クラウド記憶で君もデジタルトランスフォーメーションせよ。