◆不定期日記ログ◆
LOG 2022-03
- ■2022-03-10
- 陽性乱舞
ちょっと一家全員コロナ陽性になってドメスティックロックダウンしていた。
任意の俳句に下の句として「一家全員コロナ陽性」をつけるともれなく悲しくなる。
梅一輪 一輪ほどのあたたかさ 一家全員コロナ陽性。
全ての始まりは娘氏の急な発熱だった。だがそれはすぐに収まり、娘氏は元気モリモリで過ごしていたので我々は兆候を見落としたのであった。土日も断続的に微熱が出ていたが、なにしろ完全に元気モリモリ人間なので、「次に高熱が出たら救急病院に行く」と決めてはいたものの、結局家から出ないまま過ごしてしまった。
そして月曜夜、ご両親を38.5~39.5度の高熱が襲った。
最初に娘氏が高熱を記録したときにすぐ検査に行くべきだった……そう悔やんだものの、仮に娘氏がそのまま陽性の診断を受けたとして、土日に家庭内感染を防ぐなんらかの措置が取れただろうか? 7歳児を隔離し、食事や就寝を全て一人でやらせることは難しい。娘氏がコロナウイルスを拾ってきた段階で我々は詰んでいたのだ。
悔やんでいても仕方がない。とにかく抗原検査を受け、コロナを確定せねばならぬ。深夜から続く熱でフラフラだったが、検査を受けるのならロキソニン等で封じることはできず、ライフで受けるしかない。
行きつけの医院が開き次第、一家で車で向かう。電話で建物裏の駐車場に停めて待つよう指示を受け、車内で全身の関節の痛みにもだえ苦しむこと30分、ようやく冒頭の「一家全員コロナ陽性」の診断が下った。
それから薬の処方や保健所への連絡でもうしばらく待機することになった。院内処方のできる医院であったことに感謝しつつ、一刻も早くクスリで発熱を和らげたいという一心でもだえていた。娘氏は一人だけ元気モリモリなので車内がヒマであることに文句を言っていた。すまないが誰もフォローできない。
陽性が確定したことを職場や娘の学校、各種習い事に連絡する。しんどい。午後、保健所からの連絡があり、詳しい発熱時期や発熱前の行動についての調査を受けた。発症の順番からいって感染経路は小学校からだとは思うが、「学校ではマスク・手洗い・黙食を徹底しており、したがって児童は濃厚接触者に当たらない」ということで感染経路不明となった。このタテマエを守らなければもはや学校は回らないのであろう。学級閉鎖や休校をその都度やることの影響を考えると現実的にやむを得ない。
俺自身の発熱前の行動については「マスクなしの対面で15分以上会話」が濃厚接触者の条件らしく、喋るときは常にマスクをしていたためギリギリ他への影響を免れた。というか高熱にあえいでいるときに3日前の行動を聞かれてもたぶん答えられなかっただろうから、土日にどこにも行かなかったのは正解だった。
発症から10日間の外出禁止を命じられ、その旨をまた各所に連絡し、スマホンを抱いて寝た。意識がある間は弊サイトの過去ログを読むことくらいしかできなかった。逆に言えばそれはできた。何このサイトめっちゃ読みやすいな。
スマホンからはひっきりなしに厚生労働省から「COCOAに陽性登録して!」というショートメールが届き怖かった。いや登録したし……うまく登録通ってなかったのかな。2日経ったらおさまった。あとは県の健康観察窓口からも緊急連絡先についてのショートメールが毎日届いた。
こうして籠城生活がスタートした。物資についてはワイフがネットスーパーを利用して大量のレトルト食品やインスタント食品を確保してくれたうえ、タイミングよく「やきそば弁当たらこバター味」が1ダースと、ふるさと納税で得たジャガイモ段ボール1箱が届いたところだったので無敵だった。
翌朝、体温は37.5度まで下がっていた。代わりに喉の痛みが強まる。とはいえ物が喉を通らないとかそういうレベルではぜんぜんなく、クスリさえキメておけば耐えることは容易だった。喉の痛みは、そのうちなんか魚のホネが刺さったようなピンポイントな痛みに集約されていった。
とにかく娘氏が元気モリモリなので困る。両親ともに発熱していて、全員陽性だから外部に助けを求めることもできないという状況で、娘氏の学校の勉強が遅れないようにフォローするのは困難を極める。
保健所からレターパックでオキシジェンデストロイヤー(正式名称を覚える気がない)が届く。早速オキシジェンパワーを測定したら100点満点だったので満足したが、100は100でよくないらしい。測り直したらだいたい98か99が出るようになった。
そして気が付いたらもう週末になっていて焦る。5日目ともなると完全に平熱に戻り、あくびをしたときだけ喉が痛い健康な人となっている。重症化は免れたようで、こうなれば一安心であろう。だがこの時点で籠城期間はまだ半分残っている。あとは自宅軟禁されているだけの普通の人である。
結果として、我々が食らったコロナは幸運にもほぼただの風邪であった。しかし再確認して頂きたいのは「ただの風邪もだいぶしんどい」ということである。ただの風邪から肺炎をこじらせるケースだって当然あるわけで、風邪を侮ってはいけない。
そして10日も職場を空けてしまったので、もうちゃんと出勤できるかどうか怪しい。毎朝早起きして満員電車で時間通り職場へ出社するなんて狂ってないとできないのではないか。サラリマンとしてのマインドセットをどう立て直していくか、不安は尽きない。
とりあえず保健所から証明を出してもらって、それで保険やさんに動いて貰わなくては……社会的な活動がめんどくさい……。
任意の俳句に下の句として「一家全員コロナ陽性」をつけるともれなく悲しくなる。
梅一輪 一輪ほどのあたたかさ 一家全員コロナ陽性。
全ての始まりは娘氏の急な発熱だった。だがそれはすぐに収まり、娘氏は元気モリモリで過ごしていたので我々は兆候を見落としたのであった。土日も断続的に微熱が出ていたが、なにしろ完全に元気モリモリ人間なので、「次に高熱が出たら救急病院に行く」と決めてはいたものの、結局家から出ないまま過ごしてしまった。
そして月曜夜、ご両親を38.5~39.5度の高熱が襲った。
最初に娘氏が高熱を記録したときにすぐ検査に行くべきだった……そう悔やんだものの、仮に娘氏がそのまま陽性の診断を受けたとして、土日に家庭内感染を防ぐなんらかの措置が取れただろうか? 7歳児を隔離し、食事や就寝を全て一人でやらせることは難しい。娘氏がコロナウイルスを拾ってきた段階で我々は詰んでいたのだ。
悔やんでいても仕方がない。とにかく抗原検査を受け、コロナを確定せねばならぬ。深夜から続く熱でフラフラだったが、検査を受けるのならロキソニン等で封じることはできず、ライフで受けるしかない。
行きつけの医院が開き次第、一家で車で向かう。電話で建物裏の駐車場に停めて待つよう指示を受け、車内で全身の関節の痛みにもだえ苦しむこと30分、ようやく冒頭の「一家全員コロナ陽性」の診断が下った。
それから薬の処方や保健所への連絡でもうしばらく待機することになった。院内処方のできる医院であったことに感謝しつつ、一刻も早くクスリで発熱を和らげたいという一心でもだえていた。娘氏は一人だけ元気モリモリなので車内がヒマであることに文句を言っていた。すまないが誰もフォローできない。
陽性が確定したことを職場や娘の学校、各種習い事に連絡する。しんどい。午後、保健所からの連絡があり、詳しい発熱時期や発熱前の行動についての調査を受けた。発症の順番からいって感染経路は小学校からだとは思うが、「学校ではマスク・手洗い・黙食を徹底しており、したがって児童は濃厚接触者に当たらない」ということで感染経路不明となった。このタテマエを守らなければもはや学校は回らないのであろう。学級閉鎖や休校をその都度やることの影響を考えると現実的にやむを得ない。
俺自身の発熱前の行動については「マスクなしの対面で15分以上会話」が濃厚接触者の条件らしく、喋るときは常にマスクをしていたためギリギリ他への影響を免れた。というか高熱にあえいでいるときに3日前の行動を聞かれてもたぶん答えられなかっただろうから、土日にどこにも行かなかったのは正解だった。
発症から10日間の外出禁止を命じられ、その旨をまた各所に連絡し、スマホンを抱いて寝た。意識がある間は弊サイトの過去ログを読むことくらいしかできなかった。逆に言えばそれはできた。何このサイトめっちゃ読みやすいな。
スマホンからはひっきりなしに厚生労働省から「COCOAに陽性登録して!」というショートメールが届き怖かった。いや登録したし……うまく登録通ってなかったのかな。2日経ったらおさまった。あとは県の健康観察窓口からも緊急連絡先についてのショートメールが毎日届いた。
こうして籠城生活がスタートした。物資についてはワイフがネットスーパーを利用して大量のレトルト食品やインスタント食品を確保してくれたうえ、タイミングよく「やきそば弁当たらこバター味」が1ダースと、ふるさと納税で得たジャガイモ段ボール1箱が届いたところだったので無敵だった。
翌朝、体温は37.5度まで下がっていた。代わりに喉の痛みが強まる。とはいえ物が喉を通らないとかそういうレベルではぜんぜんなく、クスリさえキメておけば耐えることは容易だった。喉の痛みは、そのうちなんか魚のホネが刺さったようなピンポイントな痛みに集約されていった。
とにかく娘氏が元気モリモリなので困る。両親ともに発熱していて、全員陽性だから外部に助けを求めることもできないという状況で、娘氏の学校の勉強が遅れないようにフォローするのは困難を極める。
保健所からレターパックでオキシジェンデストロイヤー(正式名称を覚える気がない)が届く。早速オキシジェンパワーを測定したら100点満点だったので満足したが、100は100でよくないらしい。測り直したらだいたい98か99が出るようになった。
そして気が付いたらもう週末になっていて焦る。5日目ともなると完全に平熱に戻り、あくびをしたときだけ喉が痛い健康な人となっている。重症化は免れたようで、こうなれば一安心であろう。だがこの時点で籠城期間はまだ半分残っている。あとは自宅軟禁されているだけの普通の人である。
結果として、我々が食らったコロナは幸運にもほぼただの風邪であった。しかし再確認して頂きたいのは「ただの風邪もだいぶしんどい」ということである。ただの風邪から肺炎をこじらせるケースだって当然あるわけで、風邪を侮ってはいけない。
そして10日も職場を空けてしまったので、もうちゃんと出勤できるかどうか怪しい。毎朝早起きして満員電車で時間通り職場へ出社するなんて狂ってないとできないのではないか。サラリマンとしてのマインドセットをどう立て直していくか、不安は尽きない。
とりあえず保健所から証明を出してもらって、それで保険やさんに動いて貰わなくては……社会的な活動がめんどくさい……。
- ■2022-03-19
- 啓蟄の娘氏語録
冬休みから春休みまでの記録です。
これは娘氏の提唱する「五感」。
これは娘氏の提唱する「五感」。
- 冬休み前に3回しか跳べなかった縄跳びが、お正月の3が日を超えたら10回跳べるようになり、今では体力の続く限り跳んでいられる。伸びしろがすごい。
- 娘氏「アイチャン口がなめらかだから言い間違えることがある。」
- 娘氏「アイチャン口がやわらかくて言い間違えちゃった。」
- 娘氏「あした公園行こうよ! いいもの見せてあげる!」
ぼく「いいぞ」
娘氏「いいものが何か教えたいけど明日言わなきゃ……いいや! アイチャンはうんていができるようになりました!」
ぼく「言っちゃった全部……」 - 結局公園のうんていは学校のより高かったためうんていはまだ見れていません。
- ワイフ「お年玉で何買いたい?」
娘氏「だがしやさんにあったゆびわ(130円)」
ぼく「おもしれー女……」 - 習い事から帰宅中の娘氏「じゃあねー!」
お友達「バイバーイ!」
娘氏「いつもこうして心から会話しています。」
付き添いのぼく「どうした急に」 - 娘氏「パパも両親と心から会話するといいですよ。」
ぼく「なんでいきなりじいじとばあばの話が出てくるんだよ」 - ぼく「習い事、年上のお兄さん二人に気にかけてもらっていて良いね」
娘氏「気にかけてというか、つねに狙われている感じ。」
ぼく「なにを」
娘氏「プライドを。」 - ぼく「でかけるけどアイチャン来る?」
娘氏「きもちがゴチャゴチャしてなにも考えられなくなっちゃったから、こういうときはついてく。」 - 娘氏「大豆はえだまめの枯れたもの?」
- 娘氏「幼稚園の年長さんのころ、自分はなんで生まれてきたんだろうってうずくまることが多かった」
ぼく「哲学の仕方がドラマチックだな」 - ぼく「最近は?」
娘氏「最近はうずくまることはなくなった」
ぼく「そうか」 - 半纏を出してきたぼく「今年もナントカ時代の服を出してしまったぞ」
娘氏「ああ弥生時代ね」
ぼく「なんで古代になってんだよ」 - 娘氏「余ったねんどで、罪悪感のあるものをつくるんだ!」
ぼく「罪悪感のあるものとは!?」
娘氏「罪悪感のあるものというか、自分の好きなものというか」
ぼく「好きなものじゃん!」 - 水筒に悪戦苦闘する娘氏「ひとたまりも開かない」
- 下校時、お友達とマインクラフトについて語り合い、パパが働かない村人を地下要塞に突き落としてエンドポータル管理人に任命したことまで詳らかに説明する娘氏。やっやめろパパがサイコパスみたいじゃないか。
- ぼく「アイチャン今日登校大丈夫だった?」
娘氏「ちょっと遅くついた。雨が降っていてわたしの移動速度が遅かったから。」
ぼく「移動速度」 - 最近の小学生って「ステータスオープン!」っていうと自分のパラメータが見えるようになってんのかな。
- リビングに設置された鉄棒はいまや逆上がりの練習に大活躍している。しかし勢いよく蹴り上がって腰が鉄棒に乗るとこまでできてるのに、そこから頭が上がらずに進退窮まってるのは何なの? これ何のパラメータが足りないのか見てくれねえかな?
- 娘氏「書き取りやってるあいだ、好きなように部屋をうろつきまわってもいいわよ」
ぼく「普段はだめなの?」 - 娘氏「4時間授業になって良いことと悪いことがある。」
ぼく「はい」
娘氏「まず良いこと。帰るのがはやい。」
ぼく「はい」
娘氏「悪いことは、体育が寒い時間になる。」
ぼく「はい」 - 娘氏「ピンクってなんだか、こどもがこれ欲しいって言って大人がしょうがないなあって言って買ったような色」
ぼく「何らかのストーリーを感じる」 - ぼく「そんなに言うならアイチャンが車を運転すればいいと思いまーす!」
娘氏「反乱事故を起こして家族全員を消滅させるけど、覚悟はいいね?」
ぼく「なんで運転には前向きなんだよ」 - 花火を草火って書いた娘氏「くさかんむりの下をなんて書くかで運命が決まってくる」
- 娘氏「二年生の入学式って何着てく?」
- スクランブルエッグを自分で作ることをワイフから学んだ娘氏。ただバターの塊から適量を切り出す作業と、コンロ上の換気扇のスイッチを入れる作業はご両親がやらねばならぬ。
- 娘氏「パパの日記がもっとみたいです。人の書いた文字を見るとなんか楽しくなっちゃうので。」
ぼく「か、活字中毒者……!」 - そういうわけで娘氏は弊サイトの[育成記]タグを無限に読んで無限にゲラゲラ笑っている。記録を残しておいて良かった。まさか本人によって消費されるとは思っていなかったが。
- ■2022-03-30
- 私とゴリラ
私はその日、上野動物園のゴリラの前にいました。
折しも上野公園は桜のさかりで、動物園も入場制限があるとはいえ、かなりの人出でした。
ここ上野動物園にはニシローランドゴリラの家族が暮らしています。
ゴリラは「森の賢者」の異名をもち……いや森の賢者はフクロウか? 「森の人」はオランウータンだし「森のバター」はアボカドだ。とにかくそういった知能の高い動物として知られています。
ゴリラは一人でたたずんでいました。
そのうち隔壁のドアの向こうから大きなゴリラが現れ、悠々としたナックルウォークでそのゴリラのほうに近づいてゆきました。そして、小さいほうのゴリラの後ろに回り込み、またドアの方へ戻ろうというときに、さりげなく手で小ゴリラの腰をプッシュしました。
思えばあれが「何をしている、始めるぞ、来い」というモーションでした。
私はすぐにゴリラを追って、隔壁の向こうのゾーンが見られる窓まで移動しました。
窓の前には短い丸太がありました。
小さいゴリラがやってきて、その丸太を起こしては倒し、起こしては倒しを繰り返し始めました。窓の前にいる人間たちは、そのあふれるゴリラパワーに釘付けになりました。
丸太には穴があいており、その奥に手を伸ばすしぐさから、丸太の中に飼育員が何らかの食料を詰めていることがわかります。
小ゴリラは丸太をひっくり返す衝撃で、中のものを取ろうとしていました。
丸太のひっくり返る音で多くの人間が集まってきました。
そしてギャラリーが固唾をのんで見守る中、ついに丸太の穴から一つのトマトが転がり出たのです。
しかし小ゴリラはそのトマトに気づきませんでした。
さりげなく近づいてきた大ゴリラが、背を向けたまま、転がり出たトマトを拾い上げて立ち去ったからです。
歓声が上がりました。
ギャラリーの視界からゆっくりとフレームアウトする大ゴリラと、中身の消えた丸太を調べて釈然としない小ゴリラに、私は思わず拍手をしていました。
今、私たちはゴリラによる演劇を見せられていた。
ゴリラに手玉に取られていた。
「丸太をひっくり返して中のエサを取ろうとするなんて賢い動物ね、さすが森の賢者だわ」という気持ちで見ていた大勢の人間は、ゴリラが仕掛けたイメージ戦略の中にいた。
ゴリラとはアフリカ大陸をカラテで支配した半神的存在である。彼らは歴史の表舞台から姿を消し……そして帰還する。ゴリラたちは政府・金融機関・産業界の関係者を配下として闇の政府ディープゴリラステートを形成し、ドナルド・トランプを大統領の座から引きずり下ろし、檻の中から世界を密かに牛耳っているのだ……。
折しも上野公園は桜のさかりで、動物園も入場制限があるとはいえ、かなりの人出でした。
ここ上野動物園にはニシローランドゴリラの家族が暮らしています。
ゴリラは「森の賢者」の異名をもち……いや森の賢者はフクロウか? 「森の人」はオランウータンだし「森のバター」はアボカドだ。とにかくそういった知能の高い動物として知られています。
ゴリラは一人でたたずんでいました。
そのうち隔壁のドアの向こうから大きなゴリラが現れ、悠々としたナックルウォークでそのゴリラのほうに近づいてゆきました。そして、小さいほうのゴリラの後ろに回り込み、またドアの方へ戻ろうというときに、さりげなく手で小ゴリラの腰をプッシュしました。
思えばあれが「何をしている、始めるぞ、来い」というモーションでした。
私はすぐにゴリラを追って、隔壁の向こうのゾーンが見られる窓まで移動しました。
窓の前には短い丸太がありました。
小さいゴリラがやってきて、その丸太を起こしては倒し、起こしては倒しを繰り返し始めました。窓の前にいる人間たちは、そのあふれるゴリラパワーに釘付けになりました。
丸太には穴があいており、その奥に手を伸ばすしぐさから、丸太の中に飼育員が何らかの食料を詰めていることがわかります。
小ゴリラは丸太をひっくり返す衝撃で、中のものを取ろうとしていました。
丸太のひっくり返る音で多くの人間が集まってきました。
そしてギャラリーが固唾をのんで見守る中、ついに丸太の穴から一つのトマトが転がり出たのです。
しかし小ゴリラはそのトマトに気づきませんでした。
さりげなく近づいてきた大ゴリラが、背を向けたまま、転がり出たトマトを拾い上げて立ち去ったからです。
歓声が上がりました。
ギャラリーの視界からゆっくりとフレームアウトする大ゴリラと、中身の消えた丸太を調べて釈然としない小ゴリラに、私は思わず拍手をしていました。
今、私たちはゴリラによる演劇を見せられていた。
ゴリラに手玉に取られていた。
「丸太をひっくり返して中のエサを取ろうとするなんて賢い動物ね、さすが森の賢者だわ」という気持ちで見ていた大勢の人間は、ゴリラが仕掛けたイメージ戦略の中にいた。
ゴリラとはアフリカ大陸をカラテで支配した半神的存在である。彼らは歴史の表舞台から姿を消し……そして帰還する。ゴリラたちは政府・金融機関・産業界の関係者を配下として闇の政府ディープゴリラステートを形成し、ドナルド・トランプを大統領の座から引きずり下ろし、檻の中から世界を密かに牛耳っているのだ……。