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◆不定期日記ログ◆

■2022-03-30
私とゴリラ
 私はその日、上野動物園のゴリラの前にいました。
 折しも上野公園は桜のさかりで、動物園も入場制限があるとはいえ、かなりの人出でした。


 ここ上野動物園にはニシローランドゴリラの家族が暮らしています。
 ゴリラは「森の賢者」の異名をもち……いや森の賢者はフクロウか? 「森の人」はオランウータンだし「森のバター」はアボカドだ。とにかくそういった知能の高い動物として知られています。

 ゴリラは一人でたたずんでいました。
 そのうち隔壁のドアの向こうから大きなゴリラが現れ、悠々としたナックルウォークでそのゴリラのほうに近づいてゆきました。そして、小さいほうのゴリラの後ろに回り込み、またドアの方へ戻ろうというときに、さりげなく手で小ゴリラの腰をプッシュしました。
 思えばあれが「何をしている、始めるぞ、来い」というモーションでした。
 私はすぐにゴリラを追って、隔壁の向こうのゾーンが見られる窓まで移動しました。


 窓の前には短い丸太がありました。
 小さいゴリラがやってきて、その丸太を起こしては倒し、起こしては倒しを繰り返し始めました。窓の前にいる人間たちは、そのあふれるゴリラパワーに釘付けになりました。
 丸太には穴があいており、その奥に手を伸ばすしぐさから、丸太の中に飼育員が何らかの食料を詰めていることがわかります。
 小ゴリラは丸太をひっくり返す衝撃で、中のものを取ろうとしていました。

 丸太のひっくり返る音で多くの人間が集まってきました。
 そしてギャラリーが固唾をのんで見守る中、ついに丸太の穴から一つのトマトが転がり出たのです。

 しかし小ゴリラはそのトマトに気づきませんでした。
 さりげなく近づいてきた大ゴリラが、背を向けたまま、転がり出たトマトを拾い上げて立ち去ったからです。
 歓声が上がりました。
 ギャラリーの視界からゆっくりとフレームアウトする大ゴリラと、中身の消えた丸太を調べて釈然としない小ゴリラに、私は思わず拍手をしていました。


 今、私たちはゴリラによる演劇を見せられていた。
 ゴリラに手玉に取られていた。
 「丸太をひっくり返して中のエサを取ろうとするなんて賢い動物ね、さすが森の賢者だわ」という気持ちで見ていた大勢の人間は、ゴリラが仕掛けたイメージ戦略の中にいた。
 ゴリラとはアフリカ大陸をカラテで支配した半神的存在である。彼らは歴史の表舞台から姿を消し……そして帰還する。ゴリラたちは政府・金融機関・産業界の関係者を配下として闇の政府ディープゴリラステートを形成し、ドナルド・トランプを大統領の座から引きずり下ろし、檻の中から世界を密かに牛耳っているのだ……。