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◆不定期日記ログ◆

RELATION #dd97

■2015-12-22
ようかいしりとり攻略法
 子育てクラスタの皆様はご存じだろうか、『おかあさんといっしょ』の歌『ようかいしりとり』を。

 アップテンポでジャジーな音楽に合わせて、妖怪とようかいはかせが妖怪名でしりとりをしていく歌である。軽快なトラックとは裏腹に、出てくる妖怪名はかなりガチで、聞いたこともない奴がさらっと出てくるので驚かされる。

 この歌の中で、妖怪からようかいしりとりを挑まれたようかいはかせは、

■1番(VSろくろっ首)
ろくろっくび→びんぼうがみ→みつめこぞう→うみぼうず→ずんべらぼう→うまつき→きつねび→びじんさま→まくらがえし→しらぬい→いったんもめん(勝利)

■2番(VS座敷わらし)
ざしきわらし→しちほだ→だいだらぼっち→ちょうちんおばけ→けらけらおんな→なきばばあ→あまのじゃく→くらげのひのたま→まめだぬき→きむないぬ→ぬらりひょん(勝利)

(ようかいしりとり//横山だいすけ&三谷たくみ)
 ……と、作詞者のワザマエの光る鮮やかな連勝をおさめている。


 しかし俺は知りたい!
 ようかいはかせや妖怪たちは明らかに手加減をしている。歌の尺に合わせなければならないからだ。
 歌の都合は関係なく、互いに全力で勝ちを狙いにいったなら、はたしてようかいしりとりはどのような競技になるのか!


 まずは基本的なレギュレーションを確認しよう。
  • 使える単語は妖怪名しばり
  • 最初は自分の種族名からスタートする

 それに加えて、歌詞の中からは読み取れない部分を仮に決めておく。
  • 最後のオンビキ(ー)は削除して判定
  • 拗音「ゃ・ゅ・ょ」は「や・ゆ・よ」として判定
  • 「ジ・ヂ」「ズ・ヅ」は区別しない



 次に使える単語をリストアップしてみる。
 これがいちばん大変な作業であるが、俺は妖怪博士ではないので、今回はwikipedia「日本の妖怪一覧」を流用させて頂く。
 これは「wikipediaベースの知識でようかいはかせに勝てるのか?」という指針でもある。
 この一覧をざっとエクセルにコピペして、以下の補正を行う。
  • 読みが複数記載されているものは別々に登録
  • 「山姥(ヤマンバ・ヤマウバ)」など微妙な発音の違いのみで最初と最後の文字が変わらないものは区別せず登録
  • 「婆(ババ・ババア)」の読みが両方あるものは「ババア」に統一して登録

 そして最初の文字と最後の文字を抽出して考察を行う。



 ざっと見てまず目を引いた文字は「プ」である。
 プで始まる妖怪はいないが、プで終わる妖怪がいくつかいることが明らかになった。つまりこれらを使った瞬間、相手は使える言葉がなくなりゲームは終了する。
 
 プで終わる妖怪とは「イシネカプ」「イワコシンプ」「イワメテイェプ」「コシュンプ」「ヤウシケプ」「ルルコシンプ」の6種である。
 全部アイヌ語ではないか、アイヌ妖怪はアリなのか、という声が脳内を満たしたが、結論からいえばアイヌ妖怪の参戦はアリである。ようかいはかせ自らが「キムナイヌ」を使用しているからだ。

 したがって、今年お亡くなりになり見事に妖怪の仲間入りをしたと思われる水木しげる先生が、ようかいはかせの所へ行ってようかいしりとりを挑んだとしても、「ミズキシゲル」→「ルルコシンプ」で即死して終わる。まあ水木先生であれば「プ」で始まる妖怪をご存じである可能性もあるので断言はできないが。
 いずれにせよ我々のレベルでは、このアイヌ6妖怪に連なる「イ・コ・ヤ・ル」の文字で終わったら、次のターンで確殺されることは注意しておく必要がある。


 次に注目したいのは「ズ」だ。
 リストの中に、ズで始まる妖怪は「ズンベラボウ」しかいない。そのくせ、ズで終わる妖怪は歌詞にも出てくる「ウミボウズ」をはじめ、「アカボウズ」だの「クロボウズ」だの坊主系が各種取りそろえられていてかなり手厚い。その数なんと全26種類。ズで攻めるのはかなりお手軽で、かつ攻撃力が非常に高い。
 一度「○○ボウズ」を食らったら「ズンベラボウ」で耐えたとしても即座に「ウミボウズ」か「ウミナリコボウズ」でガードを崩される即死コンボが確定するため、相手に坊主系を使わせないよう立ち回る必要がある。

 となると、先ほどの「イ・コ・ヤ・ル」に加えて「アウオカクグケザシセタトドニヌノ」の16文字が一気に地雷ワードに加わる。
 ようかいはかせが本気なら、二戦目の座敷わらしなど開幕の「ザシキワラシ」を「シロボウズ」のカウンターで取ってからの10割コンボで終了しているのだ。同居人なので気を遣っているのだろう。

 ここまで地雷ワードが増えると、そこから芋づる式に地雷が増えていく。
 たとえば「ベ」で始まる妖怪3種はいずれも「ウ」か「ン」で終わるためこれも即死ルートへの道を開いてしまう。
 同様に「ラ」で始まる妖怪4種も末尾が「ウ・ニ・ル」なので致死である。
 「ベ」で終わる妖怪は6種しかないが、「ラ」で終わる妖怪は26種もいるので誘い出されないよう注意が必要だ。


 もう少し研究すればさらにコンボルートが増えると思われるが、この段階ですでに「ン」を含めて23文字が地雷と化した。用意した全データ1171種のうち571体、ゆうに49%が「使用した瞬間に死ぬ」ワードである。別の言い方をすれば、ようかいはかせにとってみれば約半数の妖怪が「戦った瞬間に勝ち確」というわけだ。
 さすがにそれは可哀相だろう、せめて最初の妖怪名くらいは選ばせてやるべきでは、とも考えたが、そうなると「じゃんけんで先攻を取ってルルコシンプをぶつけたほうが勝ち」というゲームになるのは確定的に明らか。妖怪図鑑を丸呑みするよりじゃんけんの腕を鍛えるべき、という結論になってしまう。


 よって、ようかいしりとりでようかいはかせに勝ちたいのならば、いきなり即死コンボをたたき込める妖怪と化して挑むのがベストである。
 先ほどの座敷童も、座敷童のままでは開幕即死だが、別名義の「お倉坊主」で参戦すれば逆に開幕10割をたたき込んで圧勝できる。
 もしあなたが妖怪と化してようかいしりとりの覇者となりたいのであれば、「瀬坊主」か「黒坊主」あたりがてっとり早い。
 瀬坊主は阿武隈川に身を投げればワンチャンあるし、黒坊主は夜な夜な女性の寝室に忍び込んで口を嘗めるただの変質者だった可能性がある。
 ただし前者は死ぬし、後者は社会的に死ぬ。


 こうなる予感はしていたものの、なんとも味気ない結果になってしまった。
 唯一の救いは、今回使った語群がwikipedia準拠だということで、wikipedia先生の知らない「プ」や「ズ」で始まる妖怪がまだいる可能性が十分あるということだ。
 今後の妖怪研究に期待したい。
 
 娘がなんかハマってるので、『おかあさんといっしょ』の「かぞえてんぐのうた」が入ったCDを借りてきた。

「かぞえてんぐ……こいつ真面目に歌うとかなり上手いな……
 これじゃあまるで……フフ……
 歌のお兄さんみたいじゃあないか……」

「あなたッ!娘の前でそんな事ッ!」
 
■2016-04-09
『いないいないばあっ!』SF説
 Eテレの『いないいないばあっ!』はSFではないだろうか。
 突然そんなことを考えた。

 子育てクラスタでない人に説明すると、『いないいないばあっ!』は『おかあさんといっしょ』のさらに低年齢層版だと思って頂いて差し支えない。
 うたのおねえさんや体操のおにいさんの代わりに、着ぐるみのわんわん(中身はチョーさん)、小学生のゆきちゃん、そして操り人形のうーたんが登場していろいろやる番組である(2016年現在)。

 で、この「うーたん」は妖精のアカチャンである。
 公式には現在記述がないが、Wikipediaによると1歳8ヶ月(人間の精神年齢では5歳程度)とのこと。
 そしてうーたんには、人形劇や歌の中で随時登場する15人の仲間がいる。お腹の虫のぐーたん、どう見ても便器のベンキー、目つきがいやらしい毛布のモウフー、あからさまに歯ブラシのハミガキマンなどである。詳しくは解説しているサイトをご覧頂きたい。

 このように過剰とも思われる人数の仲間を引き連れた妖精のアカチャンであるうーたんだが、作中にご両親の影がまったくない。
 これだけお世話をしてくれる仲間がいるということは、妖精界ではさぞかし高貴な家の生まれなのではないかと思うのだが、ご両親やご実家についてはまったくふれられていない。
 いったいうーたんとは……仲間とは……。

 ひょっとしてうーたんの「15人の仲間」というのは、アカチャンのお世話をするための育児ロボットを暗示しているのではないだろうか。
 たとえばモウフーなどは「おねむになったらとんでくる みんなのともだちモウフーだよ」と歌っており、オートマティックな行動原理を感じさせる。
 「うーたんと仲間たち」のありかたは、ねんねや食事・排泄などのリズム、お着替えやお片付けといったしつけ、はんぶんこや順番といった社会性などといったものを、育児ロボットにより自動的にアカチャンにインストールするようになった近未来を描いているのかもしれない。
 その世界ではおそらく、育児に関わる作業はすべてAIとロボットに管理され、お父さんとお母さんはわんわんとゆきちゃんという姿を借りて、ときどきアカチャンといっしょに遊ぶだけの存在となるのだろう。

 15人の仲間については、この「施設」にアカチャンを預けるときに、

「モウフー、ベンキー、ハミガキマン、チャップン、ティーちゃんの5体は衛生管理上、必須プランとなっております」
「お子様の月齢ですと、ベンキーにはオマルンが付属します」
「ぐーたんはオプションですが、外された場合は『はんぶんこ』と『じゅんばんばん』はご両親に躾けていただくことになります」
「お片付けを支援するバコンはいかがでしょうか」
「バケッパとパッパは最近人気の“お友達”です。遊びの幅が広がります。ゴットンも男の子に大変人気があり……」

 ……みたいな営業トークによって、うーたんのご両親によって契約されたものと想像できる。
 これが託児施設の不足から労働力がスポイルされている現代日本にとってのユートピアなのか、それともディストピアなのかは今の俺には判断がつかないが、近年のAIやロボットの進化のめざましさをみると、あながち空想の世界と断ずることはできないのではなかろうか(明後日の方向を見つめながら)。
 
■2016-04-18
ばいきんまんという悪役の話
 ばいきんまんさんについては、いろいろと考えされられることがある。

 俺も一児の親となったので、もはや日本幼児の必修科目と化した『それいけ!アンパンマン』は避けては通れない道だ。
 アンパンマンの世界は非常に歴史が長く奥深いので、Huluのアンパンマンチャンネルを一通り視聴した程度では入り口にも立てぬことは明らかだが、それでもばいきんまんさんについてはいろいろ考えさせられることがある。
 
 まず彼のマニピュレータに対する熱いこだわりを見逃すことはできない。
 アンパンマン世界の機械の成り立ちは「SLの赤ちゃん」の存在をはじめとして謎が多いため、我々の感覚をそのまま適用することはできないが、少なくともばいきんまんさんは自分のUFOをDIYしており、その点でかなりの機械工学力を感じさせる。

 なかでも彼が好んで使うのが巨大な手袋を模したマニピュレータである。こいつは意のままに動かせるだけでなく、ものをかすめ取るとか、人質を潰さないように掴むなど、繊細な動きも可能な代物だ。
 そしてばいきんまんさんはこのハイテックなUFOから繰り出されるハイテックなマニピュレータを操り、それにハンマーを握らせてローテクに殴る。いきなり石器時代のテックを持ち出してくるあたり「何がなんでもマニピュレータは使いたい」という彼のこだわりが、手段と目的を完全に逆転させてしまった感がある。
 このテックの落差については「マニピュレータはそのへんに自生している機械生命体で、いくらでも収穫できる」という可能性に考え至ることで、自分の中で一応の着地を見た。


 そんな高度な科学力を持つばいきんまんさんだが、なぜか食料事情が常に困窮している。多くのストーリーの起点は、ばいきんまんさんかドキンさんが食料を求めて悪さを始めるときだ。
 これだけの科学力を持ちながら、食料事情を改善するための何か……たとえば冷凍庫とかの類を開発せずに、ただ空腹に悩まされているというのは不自然ではないだろうか。バイキン城ではまれにドキンさんとかがケーキ等を食べていることはあるが、その他の日常的な食料をどこかに保存している様子はない。基本的に彼らにとって食事というのは「そのつど奪ってくるもの」なのだ。またしても石器時代か。

 これは完全に想像になるが、「本人またはかびるんるん等の影響で、食料を長期保存できない」という環境に置かれており、それは技術力でどうこうできるレベルではないとすれば一応の説明はつく。つくが、なんと過酷な運命か。
 アンパンマンに対抗するためにやってきたこの星では、彼は常に食料を求めてネズミめいて駆け回っていなければ死ぬのである。パン工場側がバイキン城に食料を安定供給するセーフティネットを提供すれば争いは解決しそうだが、「なんのために生まれてなにをして生きるのか」を「アンパンマンの撃破」に設定してしまったばいきんまんさんがそのような施しを受けるはずがない。


 このような非常にシビアな環境にあると仮定すると、悪役として一味違う魅力が生まれてくる。「飢え」に裏打ちされた闘争心はとても説得力があるからだ。

Dioは違う!あいつは馬術も地位も食べ物さえも奪い取って生きて来た
Dioは生まれた時から運命までも『奪い取って』来た人間!
Dioは『飢えた者』!君は『受け継いだ者』!
どっちが「良い」とか「悪い」とか言ってるんじゃあない!
その差がこの大陸レースというきれい事がいっさい通用しない追いつめられた最後の一瞬に出る!
その差は君の勝利を奪い君を喰いつぶすぞッ!

――ジョニィ・ジョースター『STEEL BALL RUN(7)』
 やられ役でありながらも一定の幼児の支持を得られている理由は、この飢えた闘争心によるものなのかもしれない(明後日の方向を見つめながら)。
 
■2016-06-21
アンパンマンが描く社会問題の構図
 アンパンマン世界の治安について考えてみた。


 なぜかアンパンマン世界では、基本的にばいきんまんさん以外の犯罪者が出てこない。まれに氷の女王とかが出張ってくることはあるが、それもだいたい彼が絡んでいる。
 アンパンマン世界には彼の他に、窃盗や詐欺を働く者がいないのだろうか。

 以前考察した通り、ばいきんまんさんは常に飢えており、それゆえに食料の強奪などの犯罪を行う。これはつまり「困窮した者が犯罪に走る」ということを暗に示しているのではないか。カバオ君もたびたび飢えているが、それは必ずアンパンマンというセーフティネットによって満たされるため、彼は困窮していない。飢えているのはばいきんまんさんだけなのだ。

 ではなぜばいきんまんさんだけが食料を与えられず困窮しているか。
 すぐ思いつくのは「大食いすぎて他人の分まで食べてしまうから」という理由だが、どうもそう単純ではないらしい。まず変装しているときはいくら大食いをしてもただちに非難されることはない。しかし変装していなければ悪事を働く前から厳しく対応される。まあばいきんまんさんにはこれまで積み重ねてきた前科があるのでインガオホーとは思うが、変装などに関していっさい他人を疑わないアンパンマン世界の住人にとっては異常とも思える拒否反応である。
 そして、ある屋台を襲撃した回では、ばいきんまんさん以上に食料を奪ったドキンさんは一切糾弾されず「ごちそうさまー」と飛び去っていった。ランプの魔神を酷使して常軌を逸した量の食事を用意させたコキンさんも、何ら咎められることはなかった。おなじバイキン星の出身だというのに、ばいきんまんさんだけがいつも「騙したなばいきんまん!」と非難されるのだ。

 つまりばいきんまんさんが食料を貰うことができない理由は「大食いだから」とか「菌だから」でなく「ばいきんまんだから」という一点なのだ。このような循環論法による区別は一般的に「差別」と呼ばれている。


 ここに至って、この構造が示すものが見えてきた。
 アンパンマン世界にばいきんまんさん以外の犯罪者が現れないのは、「差別が貧困を生み、貧困が犯罪を呼ぶ」という社会の仕組みを子どもたちにわかりやすく示すためだったのだ。アンパンマンはズートピアよりずっと前から、擬人化キャラクターによる社会風刺を行っていたのだ。なんたる含蓄に富む物語であろうか(明後日の方向を見つめながら)。