運命に弄ばれ坂道発進のハンコをいただくのに
二ヶ月もかかってしまった俺。
季節はいつしか夏らしくなり、俺もいいかげん教習所内での運転にはかなり慣れてきていた。
難度が高いとされているクランク・S字カーブも何度かチャレンジしたら確実にクリアできるようになった。所詮、運転なんてちょっとリアルなレースゲームだ。「車の角とカーブのラインが重なったらハンドルを切る」など、まさに
この所内でしか通用しない技を次々と編み出し、俺はあっという間に第一段階のハンコをうめていった。
学科はまだ一個空いたままだったがまあ順調に仮免に向かっていたといえるだろう。
だが、徐々に教官殿のチェックは厳しくなってくる。試験は減点制である。特に発進、右左折、進路変更の時の確認動作は厳しくチェックされる。確認→合図→確認→動作の流れを意識しないと、あっというまに減点されてしまう。コレを意識しだしたとたんに操作は若干の複雑さを帯びてきた。
たとえば、左折する交差点に差し掛かったとしよう。まず確認動作をとる。次に合図を出し、再び確認動作をとる。そして道路の左側に寄せる。同時進行でブレーキと減速チェンジ(当然半クラッチを伴う)を行い、また確認をして道路に沿って左折する。この全ての動作をすばやく行わなければならない。
あなたはお手玉が出来るだろうか?1つ2つのお手玉をジャグリングするのは誰だって簡単に出来るだろう。だが3つはどうだろう?何人の人が4つでも出来ると言い切れるだろうか?これをスムースに行うにはかなりの卓越した技術が必要である。
とにかく一番の問題は減速チェンジである。セカンドに落としてからハンドルを切らねばならないのだが、速度が速いとセカンドに落とすことができない。どのくらい減速すればセカンドに落とせるのか、その辺の感覚は未だつかめないでいるので、何度もムリヤリチェンジしようとして注意された。今度は速度を落としてからチェンジしようと思ったら
左折に間に合わず。ならばと、早めに減速を始めたら
左折の途中で止まっちゃった。なにくそ今度こそどうだと思ったら
今度は確認を忘れました。ああ!もう!なんだよコレ!!というか一緒に乗ってる教官殿が一番「なんだよコイツ!!」って思っている可能性大。早くも運転の難しさを垣間見た心境であった。
忘れてはいけないのが学科である。
あわてて残った一時間を履修し、さっそく練習問題を受けてみる。あらかじめここで合格点を取っておかないと本番(仮免検定)を受けられない。問題は、日本語の裏をつくようないやらしい出し方をしてくるが、慣れれば奴らのひっかけにはかからなくなる。
しかし。
「追い抜き・追い越し」に関する問題には注意が必要である。
なぜなら。
奴らは「先行車」やら「歩行者」などといった単語を連発してくるからである!!
ここで
アイツを連想したらオシマイである。アイツの幻影と戦っているうちにうっかり間違った選択肢を選んでいた、などという悲しい結末が待っている。アイツの幻影に勝たねば、合格はない。
そして7月最後の日、俺はようやく仮免検定までたどり着いた。
検定のコースには、進路変更・右左折・クランク・S字・坂道発進などが含まれている。坂道発進は全神経を研ぎ澄ませばなんとかクリアできる程度だが、難関とされるクランク・S字を確実に攻略できることが大きな自信につながっていたような気がする。
検定終了直後に教官殿が「ギアチェンジは落ち着いてやれ」と仰せになったので若干不安だったが、結局俺は何事もなく仮免許を手にすることができた。
そして俺は仮免許を手に、いよいよ教習所外に乗り出すことになるのである…。