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◆不定期日記ログ◆

■2022-10-15
秋の読書感想文
 いきなりなんですが、「メロスはなぜ激怒したのか答えなさい」って言われたら「王様が人を殺すから」でおおむね正解だと思うんですけど、じゃあなぜそれで怒るのかまで踏み込んで「政治がわからぬから」「邪悪に敏感だから」まで解答する必要があるか、っていうと複雑なんですよね。
 我々は軽率に「なぜ」という問いを発しますが、その求めるものについてはさまざまなベクトル、多様なレイヤーがあるということです。


 『生き物をめぐる4つの「なぜ」』という本を読みました。
 この本はティンバーゲンの4つの問い(Tinbergen's four questions)に基づいて書かれた本で、「4つの問い」とはオランダの動物学者ティンバーゲンさんが提唱した、生き物の行動を理解するための4種類のアプローチのことです。

 例えば「シカはなぜ大きな角をもつのか?」という問いに対しては、次の4つの領域から答えることができます。

①至近要因(メカニズム)
 「それが引き起こされている直接の要因は何か?」という問いで、これに対しては「性ホルモンにそういうふうに骨を伸ばす働きがあるから。」などが答えとなります。

②究極要因(機能)
 「それはどんな機能があるのだろうか?」という問いで、「繁殖期にほかの雄とバトルして雌を手に入れるため。」あたりが適切な説明となるでしょう。

③発達要因
 「それは成長の過程でどのように発達するのだろうか?」という切り口で、つまり「小鹿のころはなかった角がどのように大きくなるのか」というような意味の問いと捉え、「いま肉体の絶頂期だから。(若いシカ、老いたシカは単純なツノしか作れない)」などの答えが考えられます。

④系統進化要因
 「それは進化の過程でどのように出現したのだろうか?」という切り口で、つまり「ツノがなかった古代の有蹄類がどのように角を進化させたのか」という問いに言い換えられ、「牙で戦っていたころ、盾として角を発達させた種が進化していったため。」というような説明が帰ってきます。

 いま挙げた答えについては、俺が本書に書かれていた内容の一部を咀嚼して出力したもので、これが全てではありません。「発達」と「系統進化」についてはWhyというよりHowな気がしますが、そのへんは生物学の中でうまく折り合いがついているのでしょう。

 特に「①至近要因」と「②究極要因」については対比が鮮やかで、本書で説明されている例だけでも、

Q:鳥はなぜ春になるとさえずるのか?
①春になったことを感じる仕組みがあり、歌うモードになるホルモンが出るため。
②縄張りの維持と異性へのアピールを行うため。

Q:ホタルはなぜ光るのか?
①ルシフェリンというタンパク質が酸化するときにエネルギーが放出されるから。
②雌を呼ぶための信号。

 という2パターンの回答があるわけです。


 思うに、我々は日常生活においても「①至近要因」と「②究極要因」を混同しがちなのではないでしょうか。

 たとえば、ヘヴィー級の恋を溶かして「本当はせつない夜なのに、どうしてかしら? あの人の笑顔も思い出せないの」と憂う女子を前に、「人間の記憶定着のメカニズムはね……(眼鏡クイッ)」という至近要因の話を始めるのはイケてないでしょう。ここは「想い出はいつもキレイだけど、それだけじゃお腹がすくからね」というのが求められている答えではないでしょうか(眼鏡クイッ)。

 もちろん「夢の中では起きたのに、どうして朝は眠いんだ? どうして朝は眠いんだ?」と繰り返すキッズに向かっては、「ようかいのせい」という至近要因の答えで良いでしょう。ここで「夜に活動する妖怪から身を守るためにヒトは睡眠を進化させてきた……」みたいな系統進化の話をしても通じるわけがありません。

 悲しいクソリプをなくすため、質問の意図を正しく理解すること、そして適切な問いを発することを心がけていきましょう。