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◆不定期日記ログ◆

■2021-10-27
参勤交代はなぜ交代か
 江戸時代の「参勤交代」という掟がある。
 三代将軍徳川家光が武家諸法度に定め、制度化したものだ。

一、大名・小名在江戸交替相定ムル所ナリ。毎歳夏四月中、参覲致スベシ。

参勤交代 - Wikipedia
 これを口語訳したものがだいたいどの歴史教科書にも掲載されているが、ちょっと待ってほしい。武家諸法度には「交替」と書かれている。画像検索するといろいろな写本があることがわかるが、どれも「交替」と読める。誰も「交代」とは言っていない。

 交替と交代は何が違うのか? こういうのは検索するとドカドカ出てくる。なかには「違いと正しい使い分け」などと銘打っているものもある。言葉の使い方について「正しい」と断言できるメンタリティが俺にあったら、こんな文章は書いていないだろう。
 そういった記事たちの説明を総合すると、概ね「チェンジが1回だけのものは『交代』、ローテーションするものは『交替』である」と認識されているようだ。
 この説明に照らしてみれば、参勤交代は「交替」である。いったい誰が「参勤交代」などと書いたのだ?


 ちなみに前述のWikipediaには「参勤交代の『勤』は『覲(まみえる)』が正しいが、役人が誤って記録してしまって以来、このように書くのが一般的になった」というドすげえ一文があり、このドすげえ部分の出典が明らかでないため、おそらくこの疑問は解決しないであろうことが予感される。
 「参勤」すら怪しいのに「交代」についてどうこう言ったって仕方ないだろ……ていうか誰だよその役人……ちゃんとセプクしたのか? 誤植でセプクはしたくないものだ。

 とっかかりとしてWikipediaの出典情報をたどって『道路の日本史』(武部健一 著)を読み、「参勤とは国元から江戸へ赴く旅、交代または蹴封とは国元に帰還する旅をいう」という一文を確認した。しかし、参勤交代の語源についてはそれ以上の情報はなかった。
 「蹴封」とは見慣れない言葉で、ググッてもよくわからないが、こうなるとそもそも参勤交代の「交代」が我々のイメージするChangeやTake turnsと同義かどうかすら怪しくなってくる。これ以上は俺には荷が重いか……?


 いやまて、今Changeって言いました?
 閃いた俺はすぐにWikipediaを英語版に切り替えた!
 そしてそこに「Sankin-kōtai (alternate attendance)」という記述を見つけた!

 適当に「alternate attendance」でググって翻訳かけたら「代替出席システム」とか出てきて俺の腹筋を攻撃した。授業サボってんじゃねえ! 真面目に英和辞典を引くと、alternateが「交互の」、attendanceが「出勤」なので、参勤交代は英語に訳す際に「交互出勤」と意味をとられたわけだ。
 つまり……参勤交代は「交代参勤」と書いたほうが実態をイメージしやすい……ということだろうか? こう書くと大名たちがシフト勤務してる様子が目に浮かぶ。まあ1年単位のシフト勤務であることには違いなかろう。

 そういえば我々はシフト勤務のことを「三交代制」と呼び習わしている。これも先ほどの「交代/交替」の使い分けメソッドからすると「交替」であるべきだが、検索すると「交代」が倍以上引っかかる。言葉の使い分けに「正しい」も何もあったものではないということがおわかりいただけたところで、参勤交代は現代の感覚で言うと「交代」で良いのではないか、という実感を得られたので調査をおしまいにしたい。

■今回調べきれなかったこと:
  • 「交替」が「交代」になった時期
  • 「参覲」を誤植したやつの末路
 これは古文書ガチ勢に聞かないとわからないやつかもしれない。