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◆不定期日記ログ◆

■2010-08-28
夏休み読書感想文
 ジャレド・ダイアモンド博士の『文明崩壊』を読了。
 現在・過去の文明の崩壊っぷりから環境問題を語る本。
 さすがに前著『銃・病原菌・鉄』には新鮮さでやや及ばないが、知的好奇心を充填してくれる大作であった。
 ハードカバー上下巻あわせて900ページ弱だが、環境問題について多面的に知りたい人は挑戦するといいよ。


 さて『銃・病原菌・鉄』と同様、この本でも、同じテーマをいくつもの違う土地でなぞる方法で論が進んでいく。
 今回、何度も出てくるのは「人間がやってきて、森を切り開き、その悪影響によって自滅した」というシナリオだ。

 我々は畑も森も同じ「緑」として認識しがちだけれど、畑というのは確実に土地を疲弊させている。
 結局のところ、農業も、土中の栄養を集めているという考え方をすれば、狩猟採集と変わらない。石油や鉱物や海洋資源と同じく、乱獲すれば枯渇する。
 また、耕した畑は風雨による侵食を受けやすい。放置されればあっというまに土壌が流出する。
 AOCプレイヤーはよくご存知だと思うが、畑を張るのには木が必要だ。
 森が食料生産を支えている。

 食料自給率を上げろ、というキャンペーンがずいぶん前から張られているが、「金を払って食料を輸入する」ということは「食料生産に関する環境負荷を、相手国に負担してもらう」という側面が意識されていない。
 もし食料自給率を高めて、日本の農業規模を倍にすれば、森林伐採をはじめとする環境負荷も倍になるだろう。


 この問題に人類はどう立ち向かうんだろう。
 第2部に、グリーンランドを発見したヴァイキングが、ヨーロッパ風の生活様式を貫き、その団結力で痩せた土地に文明を築いた話が出てくる。
 しかし、300~400年を過ごすうち、彼らは気候の寒冷化という危機に見舞われる。
 ヒツジやウシを飼うのをやめ、イヌイットに学んでアザラシを捕れば、寒冷期を越えられたかもしれないが、彼らはヨーロッパ的価値観を捨てることができずに、歴史から姿を消した。

 「不適切な条件のもとで人々が最も頑迷にこだわる価値観というものは、過去に、環境に対する最も偉大な勝利をもたらしたものでもある」とダイアモンド博士は言う。

 我々が捨てるべき価値観とは何か?
 その回答になりそうなモノはいくつか挙げられているが、個人的に気になったのはそのどれでもない。

 第2部の最後に、ティコピア島の人々の生活が、崩壊をまぬがれた例として出てくる。
 外部からの支援がない孤島では、生産できる食料は限られ、したがって支えられる人口も限られる。
 人口を抑制するため、多産は非難され、堕胎や嬰児殺が日常的に行われた。
 入水自殺も数多く記録されているという。

 ひょっとして、我々が捨てるべき価値観は、
 「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」
 「子孫繁栄は人類の願い」
 という類のものじゃあないだろうか。

 ダイアモンド博士は「人口増加率は減少に転じている」と記載するにとどめたが、人間を減らさないことには、環境問題はクリアできない気がする。
 人口過密が環境ストレスを呼び、それが紛争などの政治ストレスにつながるのが文明崩壊へのシナリオだ。
 中国の一人っ子政策は成功したとは言いがたいが、今後こういう試みが世界各地で行われる日が来るかもしれない。誰だってギレン・ザビが「せっかく減った人口です」なんて言う状態にはなりたくないんだから。