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■2022-09-01 : 夏の読書感想文
 『見てしまう人びと:幻覚の脳科学』を読みました。

 私は「幽霊はいるか」という問いについてはおおよそYesだと考えています。「おおよそ」というのはつまり「存在とは何か」という哲学的な問いに踏み込まないための前置きで、要は言葉のアヤです。
 我々は目ではなく脳で見ているのであり、脳が完全に信頼できない以上、見えないはずのものを見てしまうことは当然ありえることです。つまり幽霊は我々の中にいるのであり、我々が恐怖の対象とするものが幽霊として現れるのです。チェーンソーが人々に恐れられれば恐れられるほど、チェーンソーの悪魔は強くなるのです。そういうふうに考えていました。

 それゆえこのこの本のタイトルを見たとき、私のそういった認識を強化してくれるものとして理解しましたが、実際この本に書かれているのは、それよりももっと不安定な脳のありさまでした。


 我々の脳は心理的なストレス、発熱、服薬などによってたやすくバランスを崩します。また、失明など五感の欠損、ないしは減衰(外部刺激がない環境)などでも不具合を起こし、我々に幻を見せるのです。
 筆者のマラリア予防薬の副作用で1ヶ月以上毎晩幻覚を見るはめになった経験などは、誰にでも低確率で起こりうる話であり、それゆええもいわれぬ迫力がありました。

 とてもやっかいなことに、その人がふだん執拗に考えていることが幻覚に反映されるかというと、ほとんどがそうではないそうです。我々が睡眠中に見る夢の多くが突拍子もない内容であるように、現れる幻覚のジャンルに特に本人の嗜好は関係ないのでしょう。
 幻覚のリアリティも、すぐに自分で幻だと判断できる例もあれば、他者に聞いて初めて自分にしか見えていないことがわかる例もあり、こうなるともう、我々の見ているものが本当に実在するのか自分自身では判断できないという、あまりに恐ろしい環境にいることを認めざるを得ません。
 仮に私が日常的に「通りすがるオッサン」の幻覚を見ていたとしても、私がそれを誰かに伝えない限り、それを幻覚だと知る手段はないのです。

 また、『不思議の国のアリス』を書いたルイス・キャロルをはじめとして、片頭痛持ちの芸術家というのが数多くいます。片頭痛の引き起こす幻覚が独特の芸術を生み出したという説が本書で紹介されていますが、これについてはもともと感受性が高いから芸術の才能が開花し、そのセンサーの鋭さゆえに片頭痛持ちになったのかもしれないなあと思います。鶏卵です。
 ですが、感受性の高さと幻覚に相関があるとすれば、「霊感のある人は目に見えない何かを感じて脳がそれを再生する」という話にスジが通ってくるわけです。そうなるともう本人の恐怖心とか関係なく、霊的なものはある、と言って差し支えないのではないでしょうか。

 そういう観点でいうと、洒落怖スレの傑作『巨頭オ』はかなりリアリティのある話だなと思います。普通の看板が意味不明な文字列に変わるのも、体のパーツのバランスが著しく崩れた怪物も、患者が見た幻覚の例として近いものが本書に出てきます。人間の脳のバグりかたとしてはよくありそうなライン上にあるので、「創作としても実録としてもリアリティがある」という一見よくわからない評価になりました。


 我々の意識というものは、脳内物質の奇跡的なバランスと他者とのつながりとでようやくキープできている脆いもので、それが崩れてしまえばどんなミラクルも起き放題のユニバース・フェスティバルであるということ……それは幽霊の実在よりももっと恐ろしいことだと思います。
 「幽霊はいると思うか?」と問いかけて「その前に俺は本当に実在していると思うか?」と返されたら、自分の正気を疑ってしまうかもしれない。
 あなたが読んでいるこのwebサイト、本当に実在していますか? 確かめる手段は他人と共有するほかありません。一度ご家族ご友人と話をしてみてはいかがでしょうか。

Quiz-Authentication 2.255

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