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■2018-09-27 : 逆襲のインファント・フォーミュラ
 夏以降「液体ミルク」という不思議な言葉がニュースにのぼるようになった。これは粉末でない乳児用の調整乳を指す言葉だが、説明するまでもなくミルクは液体である。これは「魚類マグロ」と言っているようなもので何か無駄な迫力を感じる。

 だがここでうろたえてはいけない。我々は「肉眼」という言葉を使う。眼は広義の肉であり魚類マグロと大差ない。だがカメラや望遠鏡などの登場で、我々の眼は「肉眼」となった。こういった言葉をレトロニムという。


 「液体ミルク」も粉ミルクの存在により生まれたレトロニムなのだろうか? 俺は少し違うと思っている。携帯電話の普及で固定電話というレトロニムが生まれたが、液体ミルクはレトロではない。新たに登場した概念のほうである。

 そもそも我々が、乳児用調製粉乳のことを「粉ミルク」と称したのが大きな過ちだったのだ。
 粉末状のミルクには他にも脱脂粉乳やスキムミルクがある。彼らの存在を蔑ろにして、乳児用の粉乳のみに「粉ミルク」という呼称を与えたその軽率さと、海外に液状の乳児用ミルクがあり、その黒船がいつ我が国に来るかもわからないのに泰平の惰眠を貪っていた失策の代償として、我々は「液体ミルク」という謎の単語を使わなければならなくなったのだ。これは贖罪の言葉なのだ。


 しかし……贖罪というのなら、まず脱脂粉乳たちに納得のいく説明をするのが先だろう。まがりなりにも理由をつけ、筋を通さなければならない。

 かくなる上は、開き直って「粉ミルクの『コナ』はもはやその意味を失っていた」ということにするしかない。
 ほかに粉乳と呼ばれるものがあり、粉末とも限らないものを「粉ミルク」と称してしまったのだから、それ以外に解釈の道はあるまい。粉乳のうち、乳児用に調整されたものを我々は「KONAミルク」と呼んだのだ。
 これなら我々は脱脂粉乳やスキムミルクを蔑ろにしたわけではなく、かつ、海外に液状のものがあることも承知していたということにできる。コナミのキャラグッズを扱うお店が「こなみるく」という名前だったことを思い出したがそんなことはどうでもいい。

 欠点としては、我々が漢字の意味も知らない凡愚ということになってしまう点が挙げられるが、まあ言語にはそういう側面がありがちだ。「御」の字のことを忘れ「おみ足」とか言ってしまうのだ。だから仕方のないことなのだ。

 この主張に従えば、「液体ミルク」は「液体粉ミルク」と呼ぶのが筋であろう。我々は「コナ」の意味を熟慮しなかったのだから仕方がない。その罪を受け入れ、甘んじて罰を受けなければならない。「液体粉ミルク」と呼ぶことが真の贖罪である。


 おそらく、昆虫界におけるこのような贖罪のプロセスとして「トゲナシトゲトゲ」が生まれたのではないか。もし将来、この液体粉ミルクが保存性を高めるために粉末状に進化したとき……そこに乳製品界の「トゲアリトゲナシトゲトゲ」が誕生するのだ。
 人類は等しく愚かであり、神はそれをお許しになる。がんばってやっていきましょう。

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