Oneside Flat Web

生きもの地球奇行・イタリア

DNAシークエンス1 『黄金体験』

Memory-1 黄金の心
 西暦2011年……
 21世紀になって早11年が過ぎました。
 途中まで見て眠っちゃったSF映画『2001年宇宙の旅』では人類は木星まで行ってましたけれども……
 僕は古い歴史と黄金体験の国「イタリア」旅行に来ていた……
 ……航空券とホテルの予約はすべて同行者のあんどう君が手配してくれた。
Narita
 飛行機はヘルシンキ経由だった。隣のシートにいるフィンランド人とおぼしき白人女性二人がうちわをパタパタしながら「機内の温度高すぎない?」みたいなことを言っている間、僕らは薄い毛布で足を包んで寒さに耐えていた。底力の違いを見せつけられた気分だった。

 ヘルシンキ空港で乗り換えて、いよいよレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港着。着陸のアナウンスとともに後ろのほうから「ヒュー!」みたいな歓声と拍手が上がるあたり、陽気な民族がたくさん乗ってるなって感じだ。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港は、ローマの空の玄関口である。この愛称に対抗できる日本の空港は「坂本龍馬空港」「米子鬼太郎空港」くらいだが、国際的知名度ではなかなかこれに勝てる人はいないだろう。いっそのこと静岡も「キャプテン翼空港」とかにしていたら、イタリア人へのウケは良かったかもしれない。

 到着は19時だったにも関わらず、外はまだまだ夕日が照りつけている。ローマの緯度はだいたい札幌くらいだ。サマータイムを考慮してもこんなに違うもんか!?と思いつつ、ローマ行きのバスを探す。

 しかし、チケット売り場もわからなければ、発着所の位置もよくわからない。かろうじて時刻表らしきものがあったが、どうやら迷っているうちに、ついさっきバスが出てしまったようだ。やむを得ず、空港と市街を結ぶレオナルド・エクスプレスでローマ入りすることにした。ツアーでないのでわからないことだらけだが、ツアーでないので柔軟に動ける。

 それにしても電車のプラットフォームが地を這っているのはどうしてなんだろう。重い荷物を客車までどっこいしょと持ち上げなければならないじゃあないか。なんなの?馬車なの?馬車の延長線なの?

 ローマについたらさすがに日が落ちていた。ローマの中心にあるテルミニ駅は、Terminiの名が示すとおり、ターミナル=終着駅だ。そのプラットフォームはおそろしく長く、空港からの電車はその端っこのほうに停車した。そのまま駅の正面まで行けば良かったものの、うっかり横から裏通りに出てしまい、のっけからアフリカ系のブラザーたちの闊歩する薄暗い街を歩くハメになって大変ビビった。

 予約していたホテルにでかい荷物をおいて、まず夕食をとることにする。ガイドブックによると近くに日本語メニューのあるピッツェリアがあるらしいので行ってみた。あんどう君は迷いなく目的のお店の隣のお店に入った。当然日本語メニューはなかったが、ピッツァマルゲリータくらいはわかるのでまったく問題なかった。

 初めて食べるイタリアのピッツァはベリッシモ(すごく)うまかった。この「ベリッシモうまい」という表現は今回の旅で頻繁に出てくることになる。しかも安い。だがとにかくでかい。二人で一枚もきついレベル。イタリア人はこれを一人で平らげるのか?実はサラダも頼んでいたが結局出てこなかった。おなかいっぱいだったから再注文はしなかったけど、さては注文通ってなかったな。
 
Memory-2 王の中の王 [map]
 翌朝、ホテルの朝食のサラミのうまさを堪能したあと、再びテルミニ駅に向かう。今日訪れるのはカトリックと厨二病の総本山、ヴァチカン市国だ。
 いつから僕の中で「ヴァチカン=厨二病」というイメージができあがったのかわからない。よく知らないけどファンタジー系ライトノベルでさんざんネタにされてる印象がある。こんな人間が入国して大丈夫なんだろうか。不安を感じつつ、地下鉄A線に乗り込んだ。

ローマには現在、地下鉄がたったの2線――A線とB線しか走っていない!
なぜ2本以上ないのか!?
それは!この都の地下を掘れば必ずなんらかの遺跡にぶちあたるためであり、そのため工事は中断!路線変更!莫大な費用と時間がかかってしまうからなのだッ!

 駅から少し歩いて、簡単なボディチェックを受けるコーナーを抜けると、そこはもうサン・ピエトロ広場である。
Piazza San Pietro
 前教皇ヨハネ・パウロ2世の功績をたたえる垂れ幕がたくさんかかっている。前教皇の人気はすさまじく、グッズの種類も生半可なものではなかった。在位も長かったし、なにより人相が丸いからだろうか(テメ、ラッツィンガーさんディスってんじゃねーぞ!)。

 午前中のうちにサン・ピエトロ大聖堂を見ておきたかったが、なにやら広場でイベントの用意がされており、入場ができないようだった。ヴァチカンめ、いったい何を企んでいる。
 それにしてもすごい日差しだ。こんな太陽に晒されつつ野外イベントだなんて、日射病で倒れる人が続出しそうなんだが、そんな様子はまったくなかった。湿度の低さのなせる技か、それとも教皇の力なのか。

 予約の時間になったので、城壁をぐるっとまわってヴァチカン美術館に入った。ヴァチカン美術館はいくつかの美術館の集合体で、その構造は複雑をきわめる。ルーヴルも不可解だったけれど、ここは場合によって順路すらぐるぐる変わり、どこから目的の場所にたどり着けるのかよくわからなくなる。ただ、流れに乗っていくと、最終的には世界コンクラーヴェ選手権大会会場・システィーナ礼拝堂にたどり着くようになっているようだ。

 システィーナ礼拝堂内は高警戒エリア(撮影禁止)。中に入るとすごい人だった。係員がずっと静かにするよう注意を促していたが、まったく効果が見られない。そりゃまあそうだ、ここに描かれたミケランジェロの「最後の審判」を見に来た人々が、感想をささやきあうのを止められるハズがないのだ。だが平然と写真を撮っていた奴は死後裁きにあうであろう。

 システィーナ礼拝堂からサン・ピエトロ大聖堂に抜けられるという話を聞いていたが、その入り口がどこにあるのかわからないまま、僕らはヴァチカン美術館を2周していた。チクショウ、もういい、外に出て普通にサン・ピエトロ広場から入場するもん!
Michelangelo's Pieta
 大聖堂の中は荘厳の一言。ミケランジェロの彫刻の代表作「ピエタ」が置かれていたが、それは防弾ガラスで厳重にガードされ、遠巻きに眺めることしかできなかった。この像は人の心を狂わせるらしい。
 他にもあちこちに聖人や教皇の像があって、いったいどういうルールで配置したんだろうと不思議になる。裏手には比較的新しい像もあったので、これからも増えるんだろう。

 足下には最初の教皇であるペトロ(ピエトロ)さんの墓がある。地下には潜らなかったが、金網の下に廊下が広がっているのが見えた。ペトロさんは「どこへ行かれるのですか(ドミネ・クオ・ヴァディス)?」というセリフで有名な人だ。なお、問われたキリストは「私は『磔刑』だ──ッ!!」と答えたらしい。間違いだらけの聖書知識だ。

 さて、ここサン・ピエトロ大聖堂はカトリックの総本山だ。総本山というからには山の一種である。そこに山があるのなら、登らなければならない。この三段論法によって、この大聖堂の頂上を目指すことにした。

 登山コースに入るには5ユーロ(5合目までエレベータを使う場合は8ユーロ)かかる。エレベータが混んでると嫌なのでガッツで歩いた。5合目からは勾配もきつくなり、階段もきわめて狭くなる。休める場所は限られているから、本当に体力勝負で一気に登るしかない。若いうちに来てよかった。

 そして登頂!
Piazza San Pietro
 教科書でよく見る景色が目の前に!
 手前にはサン・ピエトロ広場を見下ろす聖人たちの像、奥にはティベレ川に架かるサンタンジェロ橋を見ることができる。
 なるほど、『アサシンクリード2』のエツィオさんはあそこから続く城壁を渡って教皇を暗殺したのか。

 美しいローマのパノラマを堪能してご満悦の僕は、このあと、苦労して獲得した位置エネルギーによって自らの膝を攻撃するという苦行があることをまったく考慮していなかった。総じて登りより下りのほうがダメージがでかいものである。
 少し休んで、次はサンタンジェロ橋だ。


Castel Sant'Angelo
 『ジョジョ』5部のディアボロ戦が行われたサンタンジェロ橋。映画『ローマの休日』ではここの岸で舞踏会が行われていた。ディアボロもヘップバーンも川に飛び込んでいたが、正直あまり飛び込みたくはない川だった。

 サンタンジェロ城は、長い歴史のなかでいろいろ改築されてきただけあって、砦あり宮殿あり牢獄ありの雑多な感じになっていた。『天使と悪魔』ではラングドン教授が暗殺者と格闘していたが、この込み入った造りをアサシンが利用していたら、大学教授などカンタンにアサシネートされていたであろう。
Sant'Angelo
 頂上におわすアンジェロ様。剣を鞘におさめていらっしゃる。この剣の部分だけ金属の別パーツでできているようだ。もしここの接着がゆるんだら、剣が落下して観光客に刺さる事件が起こるかもしれない。そしたらアンジェロ様は「今しまうとこだったのにー!」とさぞかし無念な思いをするだろう。



 さあここからどうやってテルミニ駅まで帰ろうか。日もそろそろ暮れようとしている、が、ここから元の地下鉄駅に戻るにはちょっと距離がある。いっそのことサンタンジェロ橋を渡って、大きな通りからバスに乗ることを試してみよう。

 交通量の多いヴィットリオ・エマヌエーレ二世通りをいったん渡って、カンポ・ディ・フィオーリ(花畑広場)で休憩しつつ、バス停近くにあるアレア・サクラという遺跡まで徒歩で移動した。

 大きな道路に囲まれたこの遺跡は、ユリウス・カエサルが暗殺された場所であるらしい。いまは発掘中で、外から見下ろすことしかできないが、のらねこの天国となっている。おそらくカエサルもねこに見とれて油断したところを暗殺されたのだろう。ブルータス、お前も猫派か。
Torre Argentina
 古代の廃墟にねこは何を思うのか。



 アレアサクラの横にあるバス停はそれなりに大きく、いろいろな路線があるようだった。それぞれの路線のバス停には、停まる停留所の名前が全て書かれている。とりあえずTerminiと書いてある番号のバスを狙って乗車した。

 問題はチケットである。ローマ市内はだいたい定額で乗れるため、あらかじめチケットはどこかで買っておくモノだ。だが近くに販売所がない。「車内でも買える」という噂だったがそんなものは存在せず、車内には改札機しかない。しかも誰も使っていない。

 どういうことなのかさっぱりわからないままテルミニ駅に着いてしまったので、降り際に運転手さんに「チケット買いたいんですけど」と聞いてみたら「チケットならテルミニ駅で買ってくれ」とか言われて降ろされてしまった。確かに駅には売ってるがチクショウ、俺が聞きたいのはそういうコトじゃあねーんだ……!



 今日はたくさん歩いてくたびれたので、テルミニ駅のスーパーでお総菜を買って帰り、ホテルで食べることにした。なんということだ、スーパーの総菜レベルですら美味い。食事に関してはイタリアはホント無敵だな。

 ……ヴェネツィア編へ続く。